対象の病気と手術方法

3-1.胸部大動脈瘤手術

心臓から全身に血液を送る太い血管を大動脈(胸部大動脈と腹部大動脈に分類されます)といいます。通常は直径2~3cmの太さですが、胸部大動脈の一部分が瘤(こぶ)状に拡張する病気が胸部大動脈瘤です。おもに、高血圧などの動脈硬化が原因です。胸部大動脈瘤により神経が圧迫されておこる嗄声(声がかすれること)を契機に診断されることもありますが、通常は無症状であり、検診や他の病気の検査をした際に発見されることも多くあります。破裂した場合は突然死にいたることが多く、たとえ病院に救急搬送されても救命することは困難であり、一定の大きさを超えた場合には、無症状でも手術が必要となります。
胸部大動脈は、上行大動脈(心臓に近い部位)、弓部大動脈(脳に分枝を出す部位)、下行大動脈(背中の脇を走行する部位)に分類されますが、弓部大動脈が好発部位です。弓部大動脈瘤に対しては、中等度低体温下に頚部の血管に血液を送る方法(脳分離体外循環法)を用いて、人工血管に置き換える手術術式が一般的です。上行大動脈瘤、下行大動脈瘤に対しても、人工血管に置き換える手術をおこないます。また、弓部大動脈から下行大動脈まで広範囲にわたり胸部大動脈瘤が存在する場合には、人工血管による弓部大動脈置換術と、後述するステントグラフト内挿術を組み合わせる治療法(ハイブリッド手術)も可能です。


▲弓部大動脈瘤に対する弓部大動脈人工血管置換術の図


▲1分枝付人工血管


▲4分枝付人工血管


▲術前3DCT画像(弓部大動脈瘤)


▲術後3DCT画像(人工血管置換術)

ハイブリッド治療の例


▲術前3DCT画像(弓部大動脈~下行大動脈に及ぶ大動脈瘤)


▲術後3DCT画像(弓部大動脈置換術+ステントグラフト内挿術)

3-2.ステントグラフト内挿術

胸部大動脈瘤に対する治療は、人工血管を用いた手術治療が一般的ですが、近年、ステントグラフトを用いた治療が可能になってきました。
神奈川県内では、胸部大動脈、腹部大動脈に対するステントグラフト内挿術を施行できる病院は、数ヶ所に限られていますが、当院は胸部、腹部大動脈ともにステントグラフト治療をおこなえる認定施設となっています。
ステントグラフト内挿術とは、レントゲンを確認しながら、中にバネの入った人工血管(これをステントグラフトといいます)を大動脈瘤の部位に留置するという手術です。大腿の付け根の動脈から管を入れるので、小さい傷で手術をおこなえるという長所がありますが、蛇行または屈曲している大動脈瘤や、重要な分枝血管に近い大動脈瘤には使用できないため、すべての大動脈瘤に適用できるわけではありません。下行大動脈瘤や、一部の遠位弓部大動脈瘤(弓部大動脈の奥の部位)が適応となります。
当院では、ご高齢で手術のリスクが高い患者さんに対して、ステントグラフト内挿術を積極的におこなっています。


▲ステントグラフト内挿術の図


▲術前3DCT画像(遠位弓部大動脈瘤)


▲術後3DCT画像(ステントグラフト内挿術)

3-3.急性大動脈解離


▲大動脈解離におけるスタンフォード分類

急性大動脈解離とは、大動脈の内側の壁が裂けることにより、大動脈の破裂や、重篤な合併症を引き起こす病気です。急激な胸や背中の痛みで発症することが一般的です。裂けている範囲により、2種類に分類されます。
心臓に近い部分まで大動脈が裂けている場合をA型解離といいます。急性期に高率で死亡にいたるため、緊急手術が必要となります。当院では、24時間体制で急性大動脈解離に対する緊急手術に対応しています。手術は、上行大動脈から弓部大動脈まで人工血管を用いて置換する手術が一般的で、手術成績の向上により救命できる確率は高くなりましたが、術前にショック状態にある場合などは、救命が困難となる場合もあります。
一方、下行大動脈だけが裂けている場合をB型解離といいます。一部の場合を除いて、血圧管理により内科的治療をおこないます。ただし、慢性期に大動脈が拡大することがあり、胸部から腹部大動脈まで全体的に大動脈が拡大をきたした場合は、胸腹部大動脈人工血管置換術が必要となります。心臓血管外科手術においてもっとも困難な手術の一つですが、当院では、積極的に取り組んでいます。


▲術前3DCT画像(胸部下行大動脈から腹部大動脈に及ぶ大動脈解離)


▲術後3DCT画像(胸腹部大動脈人工血管置換術)

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